太子堂の家
茶沢通りの商店街から道路一本奥に入った住宅密集地。その一角に与えられた敷地は17.75坪( 58.71m2 )。ここに夫婦二人のための住宅を計画した。予算は1000万円台。限られたスペースと予算の中で最大限の豊かさと居心地の良い空間をつくりだそうと考え、必要にして十分な大きさの愛着の持てる住まい、コストパフォーマンスの良いシンプルな住宅を提案した。
狭小地では駐車スペースと階段の取り方によって建物全体が大きく影響を受ける。 そこで駐車パターン別に建物のプランニングをシュミレーションしてそのメリットとデメリットを比較した。その結果、縦列駐車することが最も面積効率が良く、コストやプランの柔軟性の面で最も有利だと結論づけた。敷地の間口が5.7m程度と縦列駐車するにはギリギリのスペースではあるものの、車を使う頻度は極端に少ないことと前面道路は一方通行であることを考えると実質的な縦列駐車のデメリットはほとんど無いと思われる。
クライアントは広く明るいLDKを希望。しかし狭小地では建物の平面的な広さはどうしても物理的に制限されてしまう。閉塞感や狭さを感じさせない為には人間の錯覚を利用した様々な工夫を用いる必要がある。N邸では「面積効率」を上げる、「開放的」な造りにする、「外部空間」を内部に採り入れる、横がダメなら「縦」に広げる、といった手法によって面積以上のゆとりを生み出している。
2階にLDKを配置することでプライバシーを保ちながらも開放的で明るい空間構成が可能に。更に吹き抜けを設けることで縦へ空間を広げ、ハイサイドライトやバルコニーを介して外部空間を採り入ている。ルーバー状の手摺が歩行者からの視線を適度にカットする。開放的な階段は視覚的な空間の広がりをもたらす。
吹抜を介したロフトはLDKとゆるやかにつながりながら、時には客間として時には書斎として時には仕事場として多目的にLDKの機能を拡張する。
1階にはプライベートな諸室と玄関を配置。敷地の南側には裏の家にアプローチする通路が必要なことと3階建てマンションの通路があるので、あえて南側には開放的な窓やプライバシーの必要性が高い諸室は配置していない。寝室と水廻りとクローゼットを近接させることで動線をコンパクトにまとめ機能的にした。面積効率をよくするために玄関と階段をコンパクトにまとめているが、階段をスケルトンにすることで光を採り入れ開放感とゆとりを演出する。
工法や材料も吟味し、贅肉をそぎ落としながらも本質は犠牲にすることなく理想の家造りを試みた。 例えば床材にはSPFという2×6の構造材の厚板を加工、更に根太などの床下地や天井などの仕上げを省略するなどしてコストを大幅に抑えながらも本物の無垢材を使うことを可能にした。これには階高を抑える効果もあるため、高さの規制の厳しい地域において計画の幅を広げることにも一役買っている。
躯体部分においても構造計算により安全性を検証した上で、特殊な金物を用いたり構造材を露出して用いることでハウスメーカー等では不可能な開口率と開放感を実現している。ボールト屋根には連続した高さの変化により内部外部共に表情を豊かにする効果と共に、鉄骨の梁を採用して屋根を薄くすることで内部空間の容積を効率良く利用できる。
これらの設計上の細かな工夫や研鑽の積み重ね、それを実現する職人の技術が不可能を可能に変えていく。暮らしを豊かにする住宅。建築には住まい手や利用者にとって実に様々な可能性をもたらす力があると信じている。
- 竣工
- 2003年
- 所在地
- 東京/世田谷区
- 構造
- 木造 一部 鉄骨造
- 延床面積
- 77.39m2(23.41坪)
- 敷地面積
- 58.71m2(17.75坪)
photo by K-est works (一部を除く)