相模大野の家

相模大野の家

〜旗竿状地に建つ、夫婦それぞれの趣味室を持つ長期優良住宅相当の家

計画地の周辺には緑豊かな文教エリアや環境の良い米軍住宅が広がる地域ながらも、計画地自体は住宅密集地にあり、さらにいわゆる旗竿状地のため、道路から敷地延長の奥にあり、周囲を戸建て住宅に囲われている。

立地的には利便性の良い場所にあり、現時点で車を所有する意思はないものの、将来に備えると共に資産価値の面からも駐車スペースを用意することにした。必要にならない限りは趣味の工作の屋外作業場や自転車置場として利用する。

クライアントは、所属する日本建築家協会(JIA) 住宅部会の大先輩で敬愛する建築家・渡辺武信氏と、かねてより温熱環境設計の参考にさせていただいているトップランナーの西方里見氏の本を携えて私の事務所にみえた。武信さんは設計活動のほうは現役を引退されているので、では推奨する住宅部会のメンバーの中からと私にお声がけいただいた。光栄なことであると同時にクライアント自身の職業柄、高度な工学的な見識を有しておられて身が引き締まる思いであった。
詳しく話しをうかがうと、渡辺武信さんの提唱する「おしゃもじプラン」に賛同していること、つぎに温熱性能についてもある程度は気にしたいとのことであったが、なかでも最も特徴的な要望として、体質的に強い光、特に強い明暗のコントラストが苦手とのことで、開口部を可能な限り少なくし、更に状況によって好みの明るさ(暗さに)調整することで、強い日射しが入ってこないような配慮を求められた。となると冬場のダイレクトゲインに大きな期待できないことから、断熱性に配慮したい考えであった。

そこで建築基準法は満たしたうえで窓面積を絞ったシンプルな矩形のうえに三方900ミリの軒の出を有する緩い片流れの屋根を乗せ、夏の南中時前後の強烈な直接の日射をカット。 また、太陽高度が低い冬季や朝夕の時間帯には周辺を囲む建物によって多くの日射しはカットされる。隣棟間からごくわずかに入る光に関してはコスト面からプリーズソレイユなどの建築的な装置は設けずに、電動シャッターとブラインドにて日射調整をする。北側面の明かりとりについては恒常的な柔らかい光を小さなハイサイドライトから取り込む。 LDKはなるべく直射を避けることを優先すると、日中であっても人工照明で照度を補うことも予想されるため、擬似的に昼と夜との色温度の違いを再現して生理的に生活のリズムを乱さないようしようと考えて、色温度を昼白色5000K(ケルビン)・中間色3500K・電球色2700Kの3段階に切り替えができる最新の照明器具を採用した。 また、やはり体質的な問題でLDKには均質な照度が求められ、室全体の机上面で500ルクス程度の平滑な照度が得られる器具配置シミュレーションを行ったうえで明るさと色温度の両方を調整するようにした。 ライフスタイル面においては、夫は電子機器・彫金・木工・自転車整備などの工作が、妻は洋服などの裁縫が趣味であり、ストックヤードも含めた二つの趣味室を持つ。
1Fの工作室は屋外の作業場とも行き来ができ、来客時には応接室を兼ねることから玄関近くに配置して、「おしゃもじプラン」を実践した。

2Fには裁縫室とストックヤード、主寝室、水回りに加え、もうひとつの夫の趣味の星空を眺めるアウトドアスペースとしてバルコニーを設けた。ここは1Fの屋外作業場(将来の駐車スペース)の屋根も兼ねている。
天体観測バルコニーにいたる廊下は室内物干し場でもあり、直接WIC(ウォークインクローゼット)へ服の出し入れができる。主寝室からも同様に内外3方向からWICを利用する。

将来的な配慮としては、外部にエレベーター増築が可能。2Fはほぼ間仕切壁が耐力壁にしておらず、全面的に間仕切りを変更したリノベーションを施すことが可能。
体質的なことからやや特殊な要望であるが、将来にわたり柔軟に対応でき、さらにいつかオーナーチェンジの時にも次のオーナーが必要に応じて容易にプランを更新できることで資産価値を高めることで、建物寿命をを長期化し、サステナブルな社会づくりにも寄与したい考えである。

時間的な都合から認定の申請にはいたらなかったものの、構造計算を実施のうえ耐震性をはじめとした長期優良住宅相当の性能基準を満足する。
断熱等級は4相当以上でコストを優先した仮案で温熱計算を実施、金額比較のうえ施工段階において屋根断熱材をセルロースファイバーにアップグレードした形で採用した。

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■主な温熱性能仕様
外皮平均熱寒流率:(UA値):0.61W/m²以上  ※断熱材アップグレード後の再計算は未実施
冷房期平均日射熱取得率(ηAC値):1.9

屋根断熱材:A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種 100mm
→現場にて セルロースファイバー 64K 200mm 変更(施工段階でアップグレード)
壁断熱材:袋入高性能グラスウール 16K 100mm + 防湿シート
基礎断熱:押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b 50mm
開口部:樹脂サッシ+LowーEペアガラス(防火設備)

気密:ボード気密工法 気密測定未実施 推定相当隙間面積(C値)1.0cm²/m²以下
暖冷房:空気熱源個別パッケージエアコン(高効率型)
換気設備:第一種換気(壁付熱交換型換気扇)
給水湯設備:ガス潜熱回収型給湯機、節水型水栓、高断熱浴槽
照明器具:すべてLED、一部調光方、一部人感センサー付
太陽光発電:設置なし
コージェネレーション:設置なし

竣工
2021年1月
所在地
神奈川県相模原市
構造
木造軸組構造 2階建
延床面積
94.39m²(28.55坪)
敷地面積
137.07m²(41.46坪)

photo by GEN INOUE